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16時20分。思ったより早くラタナキリ州に入った。

まだ、空は晴れており、明るい。

バンルン(ラタナキリの現州都)への入口手前5kmから右折した方向、約25kmにある「ルンファット」へ向かうことにした。ここには廃墟(ゴーストタウン)があり、「地獄の黙示録」で撮影された川が流れている。

25km、さっきまでのペースだと30~40分で到着するはずだが、これが悲劇の始まりであった。

前日まで雨が降っていたのだろう。赤土は流れ出し、穴ぼこが続く、なんでもない泥道で転び、方向指示器が壊れる。追い討ちをかけるかのように、小さな町へついたとたん、さっきまでの太陽はどうしたのか、暗雲が立ち込めはじめ、急な雨が始まった。
せっかく来たからと、ゴーストタウンに向かったのが悪かった。

街で見つけた、バイクタクシーに連れられ廃墟に辿り着いたのはいいが、雨と暗さで写真を撮るどころではない。

暗闇んでいく空の下、止む気配の無い雨を待つのも歯がゆい。少し小雨になった頃を見計らいラタナキリの街「バンルン」へと向かうことにした。

さっきまで乾燥していた道に小川ができ、完全にぬかるんでいる。引き下がることは出来ないので無理に進み、小川を越したと思ったのも束の間、バイクの胴体が下三分の一程、泥の中にはまり込み、全くもって前にも後ろにも動かない。アクセルを吹かしても完全に空回りだ。

コンピューターもカメラもバイクの後ろに載せている。泥にはまり込んだ為、泥の力で安定しており、倒れずにいるが、それもまた微妙な気分だ。自分ひとりでは全く動かせないうえ、膝まではまっており自分ひとり動くのも大変なほどだ。真っ暗な中30分ほど待つと村人が通りかかったので助けてもらった。実にいい人達だ。

先へと向かう。先ほどのぬかるみで靴の底が剥がれかかっている。ライトに照らし出された泥道には多くの水溜りがある。カンボジアの水溜りは深さが分からず危険だ。
できるだけ避けていくが、どうしても通らなければならないところに限り、深さが40センチ以上あったりする。タイヤが泥に取られて流れていく。

さほど、大きな転倒ではなかったが、クラッチが折れてしまった。こいつはキツイ。

これから先、半クラが使えないのだ。まだ、バンルンまでは程遠い。更になんでもない転倒をした。剥がれかかった靴底では、タイヤがとられても踏ん張ることが出来ないのだ。次に木の橋を越すときに木と木の間の隙間にタイヤが流れ込み、転倒した。
たまたま通りかかったCMACの人々が心配して駆けつけてくれ、起こしてくれた。これほど倒れるともうどうにでもなれと言う心境になってくる。

20kmの道を2時間ほど掛けてやっと本道へと戻ってきた。ここからは町の中心地までは5km程らしい。クラッチの利かないバイクで岩肌の見える坂道に、赤土がぬかるんでいる所を登るときは何ともいえない心境であった。一度でも止まると転げ落ちるしかないからだ。

本道は今日来た時のように安心できるだろうと思い少しスピードを上げたのがいけなかった。

何がおかしいのか分からないが普通にスリップ。別段大きな起伏もない。

はて、自分のミスかしらんと思い、気を取り直して進むと、更にゴロン。スピード?それとも、度重なる転倒でバイクのタイヤがずれたのかしらん、それともバランス感覚がずれたとか?と思い進むと、更にドゴン。

全く意味が分からん。ついでに肘も膝も弁慶の泣き所も皮膚が腫れ上がり、血が流れている。

スピードは時速10kmほど。両足を伸ばしたまま、ものすごくゆっくりと進むとまたもゴロン。更に前のブレーキレバーが折れた。

ああ、もうどうにでもなれと思うが、待ってても誰も助けてくれない。後から追い越していくバイクもみんな自分のことで精一杯なのだ。倒れた車体に挟まれた右足を無理やり抜き出し、バイクを起こす。

少し進むと、国立公園管理事務所が見えた。雨の中数人のスタッフが庭で何かをしている。ここでこけたらかっこ悪いなと、少しだけ余所見をしながら、のろのろと走るとまたゴロン。靴のおかげか全く踏ん張りが利かない。
こけた拍子にでた、アクセル音にびっくりした公園スタッフ達が駆けつけてくれ、バイクを起こしてくれると同時に、タイヤの空気を少し抜き始めた。

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ああ、これでやっと理由が判明した。道路が氷状になっているのだ。といっても分かりづらいが、まず、きっちりと固められた道路の上に、飛んできた軽い赤土が薄い膜状にとどまる。それに雨が降りその粘液状になった軽い赤土と、硬い道路用赤土との間でツルツルと滑りタイヤが流れるのだ。なので、タイヤの空気を減らし、接地面積をあげなきゃいけないのだ。

分かったところで、それがどうなるわけでもない。更にゆっくりと進み。やっとの思いで一番手前にあった宿、ソヴァンキリホテル(1室10$エアコン、ホットシャワー付)に向かった。

とりあえず、ホットシャワーを浴びたいのだ。

泥だらけになり、ウィンカーが割れ、クラッチとブレーキレバーが折れ、バックミラーにはヒビが入り、取れそうになっているのを見たホテルスタッフが、急いで荷物を下ろしてくれ、支えてくれたのが嬉しかった。

明日の為、手袋を洗うが、何度洗っても赤土が流れ出てくる。

ああ。今日は実に大変な一日であった。

この辺境の地で、壊れたバイクのパーツは手に入るのであろうか?また、明日の道路状況も今日と一緒でなかろうかと本気で心配だ。

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